先に置いておきたい抜け方の要点
先に結論を置いておくと、行き詰まったときにはいったん手を止めるのが最も確かな抜け方になります。もっと作れば道が開けるはずだという思い込みこそが、実は出口を遠ざけていることが多いのです。
うまくいかない日が続いてくると、多くの人はさらに数をこなそうとして手を動かし続けてしまいます。その姿勢は前向きに見えるものですが、同じ場所をぐるぐると回っているだけになりがちだといえます。
手を動かしている間は考えているつもりになれるため、止まることに強い抵抗が生まれてしまいます。何もしていない時間が怖いという気持ちが、かえって行き詰まりを長引かせてしまうことがあります。
しかし実際のところ、離れている時間にこそ頭の中の整理が進んでいるということが分かってきています。菓子から目を離しているあいだに、答えのほうから近づいてきてくれるという場面は珍しくありません。
手を止めるといっても、それは投げ出すこととはまるで違うということを押さえておく必要があります。いったん距離を置くという選択は、あくまで続けるために行われる前向きな判断にほかならないからです。
止まっている時間の使い方によって、そこから先の進み方は大きく変わってくることになるのです。ただぼんやり過ごすのか、意識して別の場所へ目を向けるのかで、戻ってきたときの景色が違ってきます。
この抜け方は、経験を重ねた作り手ほど自然に選び取っているものだということも知られています。長く続けている人ほど、無理に押し通しても良い結果にならないと身をもって知っているからです。
だからこそ行き詰まりを感じたときには、まず作業台から思い切っていったん離れることを勧めたいと思います。そのうえで、なぜそこで止まってしまったのかを落ち着いてゆっくり見つめ直す時間を取るのがよいでしょう。
行き詰まっているときに起きていること
行き詰まっているときには、たいてい見えている範囲がいつの間にか驚くほど狭くなってしまっています。目の前の一つの部分だけに気を取られ、全体の姿を見渡す余裕が失われているということが起こります。
同じ手順を何度も繰り返しているうちに、頭の中でも同じ道筋ばかりを通るようになっていきます。別の選び方があるかもしれないという考えそのものが、頭の中にまるで浮かんでこなくなってしまうのです。
自分が何を目指していたのかがぼやけてしまっているという場合も、たいへん多く見受けられます。何を良しとするのかが曖昧なままでは、どちらの方向へ進めばよいのかを判断できるはずがありません。
比べる相手が近すぎるという状況も、行き詰まりをしばしばより深くしてしまう原因のひとつになっています。すぐ隣にいる誰かとばかり見比べていると、自分本来の歩幅を見失ってしまうことになりかねません。
単純に疲れが溜まっているというだけの場合も、実際のところかなりの大きな割合を占めているようです。体が重く感じられる日には手も鈍くなり、それを腕前の問題だと取り違えてしまうことがよくあります。
うまくいかない理由を、自分の才能そのものの話へすり替えてしまうという落とし穴にも注意が必要です。手順や条件の側の問題であることのほうが多いのに、自分自身を責めてしまう人は決して少なくありません。
こうして眺めていくと、行き詰まりの正体は技術の不足ではないという場合が多いことが分かってきます。多くの場合は見え方の問題であり、視点を移し替えることで自然に解けていくものだといえるでしょう。
つまり必要なのは、同じ場所でさらに力を込めることではなく、立つ場所を変えるという工夫です。手を止めるという選択は、そのためにどうしても欠かせない最初の一歩になっているのだといえるでしょう。
手を止めたあとに試してみたいこと
手を止めたあとに試してみたいことの一つは、まったく別の分野のものへ思い切って触れてみることです。お菓子とは何の関わりもない場所から、思いがけない考え方がふいに飛び込んでくることがよくあります。
昔の自分が残した記録をあらためて読み返してみるという方法も、大きな手がかりを運んできてくれます。何に困り、何を面白いと感じていたのかを思い出すだけで、足元が自然と定まってくることがあります。
誰かに話してみるという方法も、実は思っている以上に強い働きをしてくれることがよく知られています。説明しようとして言葉を選んでいるうちに、自分でも気づいていなかった論点が浮かび上がってきます。
基本と呼ばれる場所へいったん戻ってみるという選択も、遠回りに見えて実は近道になることがあります。手順の一つひとつを丁寧にたどり直すと、抜け落ちていた部分が見つかることが少なくありません。
条件を一つだけ変えて作り直してみるという試し方も、行き詰まりをほどく大きな助けになってくれます。あれこれ同時に変えるのではなく、一か所だけを動かすことでその違いがはっきりと見えてくるからです。
しばらく作らないとあえて決めてしまい、食べる側へ回ってみるという時間の使い方も勧められています。買う人の気持ちを思い出すことで、自分が何を届けたかったのかが見えてくることがあるからです。
製菓を学ぶ学校の実習でも、行き詰まった人へまず休むよう促す場面があると聞くことがあります。焦って手を動かし続けるよりも、いったん離れたほうが結果として早く進めるからだといえるでしょう。
こうして視点を移してから作業台へ戻ってくると、同じ生地がまるで違って見えることに驚かされます。景色が変わったのは菓子の側ではなく、それを見ている自分の側なのだと気づかされる瞬間になります。
まとめ
行き詰まったときにはいったん手を止めるのが最も確かな抜け方になるという結論から、この話は始まりました。もっと作り続ければ道が開けるはずだという思い込みこそが、実は出口を遠ざけてしまっていることが多いからです。
行き詰まっているときには、たいてい見えている範囲がいつの間にか驚くほど狭くなってしまっているものだといえます。同じ手順を繰り返すうちに頭の中でも同じ道筋ばかりを通るようになり、別の選び方が浮かばなくなってしまいます。
何を目指していたのかがぼやけていたり、比べる相手が近すぎたり、単純に疲れが溜まっていたりもするものです。行き詰まりの正体は技術の不足ではなく、多くの場合はものの見え方の問題なのだと考えることができるでしょう。
手を止めたあとには、まったく別の分野に触れ、昔の記録を読み返し、誰かに話してみるという方法が助けになります。基本へいったん戻ってみることや、条件を一つだけ変えて試してみることも、抜け道を照らしてくれる工夫でした。
視点を移してから作業台へ戻ってくると、改めて同じ生地がまるで違ったものに見えることに驚かされるはずです。景色が変わったのは菓子の側ではなく、それを見ている自分の側なのだと気づかされる瞬間が訪れるのでしょう。
