続けることの難しさはどこに潜んでいるのか
お菓子を作り続けるという営みの難しさは、そもそも一日一日の仕事の重さだけにあるわけではありません。同じ日々が幾度も巡ってくる中で、気持ちの張りをどう保つのかという問題のほうが大きいといえます。
始めたばかりの頃は、目の前のことに夢中になれるため、続けるという意識すら生まれてきません。ところが年月が積み重なるにつれて、続けること自体が一つの課題として立ち上がってくるのです。
季節が一巡し、同じ品を同じ時期に作るという場面が繰り返されると、新しさは静かに薄れていきます。去年もこれを作っていたという感覚が、思いがけないほど重く胸にのしかかる日も訪れることになります。
体の負担も少しずつ形を変えて現れ、若い頃と同じやり方では立ち行かなくなる時期がやってきます。長い時間を立ち通しで過ごすというこれまでの働き方が、そのままの形では続けられなくなっていくのです。
周りの人と自分を比べてしまう気持ちも、続けることを難しくしてしまう原因のひとつになっています。誰かの華やかな仕事が目に入るたびに、ふいに自分の歩みがひどく遅く思えてしまうことがあるからです。
うまくいっているときほど、次はこれ以上のものをという重圧が静かにのしかかってくることもあります。積み上げてきたものが、いつの間にか自分自身を縛る重い鎖のように働いてしまう場面が生まれてきます。
こうした難しさは外からは見えにくく、当人の内側で静かに進んでいくという性質を持っています。だからこそ気づいたときにはかなり深いところまで来てしまっているということが起こりがちです。
長く続けている人たちは、この難しさを避けられないものとして受け入れたうえで、備えを整えています。続けるという営みには、作る技術とはまた別のいくつもの工夫がどうしても必要になると知っているからです。
長く続けている人が静かに守っていること
長く続けている人が静かに守っていることの一つは、休むことをきちんと予定へ組み込むという習慣です。疲れきってから休むのではなく、疲れる前に休むという順序を守っているところに違いがあります。
自分の仕事を記録として残していくという習慣も、多くの人がひそかに続けているものになります。過去の自分がどこまで来ていたのかを確かめられるということが、日々の張りを支えてくれるからです。
組み立てに小さな変化を毎年ひとつだけ入れるという工夫も、飽きを遠ざける方法として知られています。すべてを変える必要はなく、ひとつ動かすだけで作る側の気持ちは十分に新しくなってくれるものです。
体を整えることを仕事の一部として扱うという構えも、長く続けている人に共通している特徴です。手や腰を守るための小さな習慣が、十年先の自分を支えてくれるということを知っているからです。
同じように続けている人とゆるやかにつながっておくことも、大きな支えになってくれるといわれます。近すぎず遠すぎない距離で近況を交わせる相手がいることは、思いのほか力になってくれるものです。
目標を遠くに置きすぎないという工夫も、続けるうえではきわめて実際的な知恵になっているといえます。今週やり遂げたいことを一つだけ決めるだけで、日々の歩みそのものは驚くほど軽くなってくれるからです。
うれしかった出来事を忘れずに書き留めておくという習慣を持つ人も、少なくないと聞いています。落ち込んだ日にそれを読み返すことで、自分が続けてきた理由を改めて思い出せるようになるからです。
製菓を学ぶ学校で身につけた基本へときどき立ち返るという習慣も、静かな支えになってくれます。土台を確かめ直す時間が、日々の慌ただしさで削られたものを静かに埋め直してくれることになります。
続けるためにあえて手放してきたもの
長く続けていくために、多くの作り手がこれまでにいくつかのものをあえて手放してきたのだといわれています。まず手放されるのは、すべてを完璧に仕上げなければならないという思い込みであることが多いようです。
すべての品を同じ密度で磨き上げようとしてしまうと、気力はたちまち底をついてしまうことになります。力を入れる場所と抜く場所を決めるという判断が、続けるためには欠かせないものになってきます。
何もかも自分の手でやらなければならないという考えも、早い段階で手放されることが多いものです。人に任せられる部分を渡していくことで、自分にしかできない仕事へ力を集められるようになります。
ほかの人と自分を比べるという習慣も、少しずつ距離を置かれていくことになる代表的なもののひとつです。比べる相手を過去の自分に置き換えるだけで、心の消耗はずいぶん軽くなってくれるといわれます。
若い頃とまったく同じ働き方を貫くという構えも、どこかの時点で必ず見直されることになっていきます。同じ量を同じ速さでこなすことにこだわらず、やり方そのものを組み替えていく柔らかさが求められます。
届いた評価をすべて受け止めなければならないという構えも、静かに手放されていくもののひとつです。届く言葉を選んで受け取るという構えが、長く立ち続けるためにはどうしても必要になってくるからです。
手放すという行いは、決して後ろ向きな諦めなどではなく、続けていくための前向きな選択にほかなりません。抱えられる量にはどうしても限りがあるという事実を認めることが、その第一歩になっているといえます。
こうして荷物を少しずつ軽くしていった先に、菓子とゆっくり付き合っていける時間が生まれてきます。急がずに手を動かせる日々こそが、続けてきた人だけが受け取れる静かな贈り物なのだといえるでしょう。
まとめ
お菓子を作り続けるという営みの難しさは、そもそも一日ごとの仕事の重さだけにあるわけではありませんでした。同じ日々が幾度も巡ってくる中で、気持ちの張りをどう保つのかという問題のほうがはるかに大きいといえます。
長く続けている人は、疲れきってから休むのではなく、疲れてしまう前に休むという順序を静かに守っています。記録を残し、毎年ひとつだけ小さな変化を組み立てへ入れ、体を整えることを仕事の一部として扱ってもいるのです。
目標を遠くに置きすぎないという工夫や、うれしかった出来事を書き留めておくという習慣も、大きな支えになります。同じように続けている人とゆるやかにつながっておくことも、思いのほか大きな力を静かに運んできてくれるものです。
その一方で、実は長く続けていくためにあえて手放されてきたものもまた、決して少なくはなかったのだといえます。すべてを完璧に仕上げなければならないという思い込みや、他人と自分を比べるという習慣は、その代表だといえるでしょう。
手放すという行いは決して後ろ向きな諦めなどではなく、続けていくための前向きで静かな選択にほかなりませんでした。荷物を少しずつ軽くしていった先に生まれる時間こそが、続けてきた人だけが受け取れる静かな贈り物なのでしょう。
